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2010年06月 アーカイブ

完全弛緩でこそ生れる表現の多彩さ

弾くこと主体の、ピアノのおけいこをしてきた人にとって、一番の問題点が、いままで述べてきたところの完全弛緩にあるのだと思います。

弛緩の感覚は内的に把握されなければならないもので、それは「音」を主体とした教育による第一歩からの正しい習慣によって、身体が自然に覚えていくものだからなのです。

外部的に加えられた運動によって力を抜くことは、完全弛緩ではありません。

また、技術の確実さは、タッチする前の安静にかかっており、必要でない運動は、いっさいこれを避けるということが最高度の技術を得るためのポイントです。

それなのに、力を抜くためのムダな運動により、演奏をより困難なものにしていることが、どんなに多いか分らないのです。

しかも、ピアノという楽器の宿命のように、そこを特に意識させなければ必ず弾くことが先立つため、例外なくカが入り、その力に力をもって対抗するかのように指の訓練が行われるのです。

これは、重い荷物を背負って走らされているようなもので、どんなに訓練しても、身軽な人の自由さには及びもつきません。

しかもそうやって訓練してきた人は、筋肉を鍛えているので、そんな無駄な力を使っているとは思ってもいないのです。

そして、動きのパターンを身につけて、リズムにのって、かなり達者に弾くことはできますが、音色、音質の問題となると、またまた壁にぶつかってしまいます。

音による心の表現こそ、完全弛緩であるからこそ、気持がまっすぐに指先に伝わっていくのです。

完全弛緩をおいてほかに、その自由な表現はありません。

自由な表現をするために

完全弛緩の感覚を見失ってしまうと、水の流れの中に、石を置いて流れを疎外するようなもの。

気持がまっすぐ指先に伝わらないため、心のままの音を出すのに大変な苦労をするのです。

そのため、やたら身体を動かしたり、顔にまでその無理は表れてきます。

それでも満足のいく表現ができれば、弾き方など云々する必要はないのですが、大抵は、うまくいって達者に弾くだけのピアノに終ってしまい、その上の段階にのぼれないのです。

ヨーロッパやアメリカへ勉強に行った音楽学生が一様に言われる言葉は「指はよく動くが、音がみな灰色である」ということ。

これは、音への感覚、心のあり方が根本問題ではありますが、そこまで行ける人は、普通はよい感性
と音を求める心は充分もっているもの、心で欲していても、弛緩を失っているために表現できないという場合が非常に多いのです。

そのため、『技術とは力を抜くことである』と、弛緩を得ようとするのですが、長い間培ってきた奏法によって弛緩の感覚を失っているのですから、いくら努力しても、これは大変困難なこととなります。

完全弛緩でさえあれば、音のイメージによって自然に音色の変化ができるのに、ただ音楽の理解だけで弾いていくことができるのに、それが自然にいかなくなってしまっているのです。

そのため、この音はこうする、ああすると、指の当て方とか、手首の使い方、腕の重みのかけ方などを、いちいち指示を受けなければならなくなるのです。

これでは、いくら何種類、何10種類の弾き方を覚えても、それに熟達しても、無数にある心の表現はなし得ません。

また、そういった弾き方の指導によって、自由な表現、心を打つ演奏ができるわけがありません。

現在のピアノのおけいこにおいては、動く指の訓練をして力の入った腕をつくり、今度はより高度な技術のために力の抜き方を教わる、という2度手間、無駄な訓練を強いられているのです。

しかし、1度色のついたものは、2度と純白にはならないように、動きの訓練をしてきた人にとっては、弛緩の感覚をつかむことは、容易ならざることとなってしまいます。

そのため、姿勢や呼吸法による矯正や、ヨガなどによってかたまった筋肉をほぐす、ということが行なわれることとなります。

完全弛緩奏法を会得している人と、そうでない人との違いは、はっきりとピアノの音質に出てきます。

力で弾く人の音は堅く、fは騒々しく、Pに安らぎがありません。

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